ロンがまだ小さい頃、ある寺の除霊に付き合った。
結構な力を持つ住職で、読経による導引から憑き物を引きずり出してしまう。
その日も若い女が相談に来ており、夜な夜な現れる悪霊に悩まされているという。
いつものように住職が読経を始め、ロンは線香やら灯明やらの首尾を整える。
日中であったが辺りは薄暗く、蒸すのも手伝って独特な雰囲気となっていた。
ブツブツと何かを呟く声がする。
見ると女が頭を掻きむしりながら、苦悶の声をあげていた。
時に怒り、時に奇声を放ち、苦しみ涙しながらに動物の唸るような気をはしらせている。
緊迫した空気の中、どのタイミングだったか急に住職の読経が止んだ。
アドリブにしては節が良くなく、気になってそちらを見やると突然に住職が転がるということが起きた。
倒れるとかそういった感じではなく、背中を丸めて転がり込んでしまったのだ。そのまま手足をバタバタを動かし、痙攣の症状を見せた。
緊急であることは直ぐに分かった。住職の顔は赤紫色に変色し、唇にはチアノーゼの症状が出ていた。住職は意識を失い、ロンはその後ご家族と共に病院にまで付き合うことになる。
そういえばあの女は、どこへ行ったのだろう。
あの暑い日、倒れた住職を前に苦悶の表情を解きおもむろに立ち上がり、ロンと共に住職の家族を呼びに行ったあの女。
あの時の、住職の様子を覗き込む女の顔をロンはよく覚えている。
脂っぽくて浅黒い、なんだか嫌な顔。それが鼻の下を伸ばし、時にいやらしい笑みすらを浮かべて、ホゥホゥと不思議な声を出しながら覗き込んでいた。
